1.トヨタのデザインコンセプト
近年のトヨタ自動車(株)のデザインコンセプトのキーワードは『j-factor』と『VIBRANT CLARITY』である。
『j-factor』は、直訳すると日本的要素であるが、デザインの独創的な創造活動において相反する様々な事柄を『対立』でも『妥協』でもなく、『調和』することによって新たな価値を創造する日本独自の価値観や美意識で、トヨタデザインの基本的な考え方である。その代表的なものが、たとえば、エンジンとモータを組み合わせることで誕生したハイブリッド車。このように、2つの異なるモノを、妥協・対比させるのではなく、良いところを組み合わせることにより、新しい価値を生み出す日本固有の価値観・ダイナミズムを象徴している。
一方、『VIBRANT CLARITY』とは、『活き活きとした、分かりやすいデザインをお届けしたい。j-factorの考え方に基づき、相反する二つ要素であるEMOTION(感情)とRATIONALITY(合理性)を融合させ、新しい価値の創造を目指し、また、使うたびにワクワクする、そして愛着が深まるデザインを目指す。』としている。ここでは、そのデザイン要素の1つとして、『くずしをもって完成とするパーフェクトインバランス』を見てみる。
図1 トヨタ自動車(株)のデザインコンセプトの例
(トヨタ自動車(株)提供)
たとえば、図1に示すようにプリウス3代目のトライアングルシルエットである。フロントピラー(Aピラー)を前に移動して傾斜させる、つまり『くずしをもって完成とするパーフェクトインバランス』にすることで、ヘッドランプにつながるラインを強調するとともに、ルーフのピークを後方に移動し、ボディ全体に前進感のあるわくわくするダイナミズムが生まれ、空力は世界最高レベルのCd値(空気抵抗係数)0.25が実現された。
加えて、後席のヘッドクリアランスが2代目プリウスより12mm大きくなり、居住性や乗降性にもすぐれた、『活き活きとした、分かりやすいデザイン』であるトライアングルシルエットに進化させている。
このように、プリウスをはじめとして『j-factor』と『VIBRANT CLARITY』というトヨタのデザインコンセプトをトヨタの60車種を超える種々の車のスタイリング工程に展開している。これをデザインインという。
2.スタイリング工程(モックアップ、最終チェック工程)1)
さてここでは、上述のトヨタのデザインコンセプトを実現するデザイン部の仕事内容である意匠(デザイン部門)におけるCAD工程、およびCAM工程(モックアップ)に関する説明から始め、以降、クレイモデルレス化、設計・生産とデザインデータの連携についての説明へ展開する。
図2 新しいデザインシステムマップを構築
(トヨタ自動車提供)
1.デザイン部門におけるCAD工程1)
2012年8月号掲載の『トヨタ自動車デザイン部におけるデジタルマニュファクチャリング①』の図6に示したようにアイデアモデルの立体化領域では、3次元CAD化を推進している。
スタイルCAD工程では10年前から、トヨタ自動車独自開発のシステムとして『スタイルCAD』と『カラーCAD』の2システムが採用されている。デザイナーのアイデア&イメージ、開発するモデル、そのための図面資料を有機的に効率よく運用・支援するために、『スタイルCAD」を柱に、トヨタでは図21)に示す新しいデザインシステムマップを構築している。
いい遅れたが、トヨタ自動車のスタイルデザインCADは、元来、1970年代後半に穂坂衛氏がトヨタ自動車と共同で完成させたシステム(第1回の図3を参照のこと)である。従来の人手によるクレイモデル(マスタモデル)製作の代わりに、スタイルデザイナーの美的感覚にマッチした曲線、曲面形状の評価機能をもったコンピュータ内でデザインモデルを作り、その後、自動切削でクレイモデルをつくるスタイルデザインCADであった。そして、クレイモデル及び線図を不要とするプロダクトモデル(数値モデル)の作成工程が拝発されるのである。
それぞれのシステムでは生産効率を上げるため専門職制を取っており、トヨタ社内の高度なイメージを所有する600人のデザイナーとシステムの操作を専門に行うオペレータとが一緒に造形作業を行う形態を取っている。
今後は、社内でスタッフがデータを共有化してものづくりを進めるためのシステムの整備が一層急務となる。それをトヨタでは独自に開発している統合システム(スタイルCAD新版)と連携させる。
図3に示すように、デザイン部門のスタイルCADの前でデザイナーとCADオペレータとが協力し、目的のワイヤフレームモデルを迅速に作成している。作業の効率化を図るうえで、デザイナーとオペレータの仕事や作業は区別されている。
- 会社名
- 豊橋技術科学大学・武藤研究所
- 所在地
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