1. はじめに
福島第一原発の大災害により、皮肉なことに日本はその特需によりLED照明導入で世界のトップレベルに躍り出た。
にもかかわらず、照明用デバイスやLEDウエハを日本で作ること自身が困難な状況に陥ってしまっている。
それでも日本のLEDデバイス実装技術や材料は、世界で多く使われ続けている。
欧州で販売されていたLED電球のLEDデバイス内部構造を確認しながら、その実装推移について確認する。
さらにLED新規分野で使われ始めている、あまりまだ知られていないUVデバイスや耐放射線特殊用途LEDランプの実装を紹介する。
2. ドイツのLED電球売り場
写真1は、白ワインで有名なドイツのビュルツブルグにある電気店でのLED電球売り場(2019年)である。
写真1 2019年 ドイツでのLED電球販売
やはり欧州大手の2社が、売り場を大きく占める。
日本と違って、明るい白い光のものより、暖かい色のものが多い。
OEMの海外製も一部あるが、売り場の下の方に置かれている。
あたりまえであるが、日本メーカーのLED電球など1つも置いてない。
価格表示は電子ペーパータグである。
3. 欧州で販売されているLED電球のLEDデバイス構造
写真2は暖かい色を出すため、1つのセラミックパッケージに2種類のLEDダイが搭載された2011年初めのオランダメーカーの2700K LED電球用モジュールである。
写真2 オランダのLED電球5W 2700K(2011年1Q)
青色LED1つ(中央部白色用)以外に、赤色LEDダイ4個を直列ワイヤボンド接続したものを周囲4辺に計16個配列して色を調整している。
また放熱用アルミ基板などを使わず、63個のサーマルビアを設けた薄い両面プリント基板の上に、このLEDデバイスをSMT実装し、ユニークな低コスト対応を行っている。
写真3は、オランダメーカーのキャンドルタイプ電球で、1つのセラミックパッケージに、23個がオンダイ直列接続されたクラスタ青色アレイ(白色部)2個と、暖かい色を出すため、16個のオンダイ直列接続クラスタ赤色アレイLEDダイ2個を配列している。
写真3 オランダのLED電球2W 2700K(2011年4Q)
世界の電球市場を押えているオランダのマーケット担当者の強烈なこだわりを感じる素晴らしい出来栄えである。
写真4は、ドイツで販売されていたオランダメーカーの9W電球で、コスト対応とライトガイド適応のため16個のSMDが円形に実装されている。
写真4 9WLED電球 16pcs SMD 2200-2700K(2016年)
1つのSMD LEDあたり、0.56Wとなる。
ドイツの世界遺産の街、ヒルデスハイムの古い建物を使ったレストランで、ちょうどこのランプが使われていたが、非常に落ち着いた、素晴らしい雰囲気であった(写真5)。
写真5 ドイツ世界遺産の街ヒルデスハイムでの古い建物の
レストランで使われていたLED電球(2016年)
写真6は、棒状にLEDベアダイ実装されたフィラメントが4本、昔風のガラス細工技で線を固定して作られている。
写真6 ドイツで販売されているLED電球4.5W 4 LED Filament 2700K(2019年)
電球の外側もガラスバルブで、内側に白い拡散剤が塗布されている。
左側はX線でのイメージ図であり、右側がトンカチで、ガラスをたたき割ったものである。
割った瞬間に、部屋中に白い拡散剤が広がった。
2019年のオランダメーカー製。
外観は、ほぼ昔の白熱灯電球と同じである。
以上のように、LED電球に使われている、LEDデバイスも多種多様であり、日本と違い、暖かい色に対する工夫がなされている。
以前、オランダのR&D責任者に、どうしてこのようなLEDデバイスを使用するのか聞いてみた。
「照明機器メーカーとし、品質も含めトータルのコストを配慮した、コストドライビングフォースで進めている」と即座に言い切ったのが、今でも印象に残る。
4. LED新規分野の特殊用途LEDランプの実装構造と用途
写真7は、高性能高輝度を得るためのフリップチップ実装LEDデバイス(2011年)であり、36個のスタッドバンプによる超音波フリップチップ接続などを行ってから、モールドされている。
写真7 Auバンプ GGiフリップチップ実装
この超音波フリップチップ技術をベースにして、最近のUV LEDが設計製造されている。
1.UV LEDについて
紫外線(紫外放射)を、 UV-A (400–315nm)、UV-B(315~280nm)、UV-C (280~100nm) の記号で、さらに3つの波長領域に分ける(国際照明委員会CIE定義)。
このUV波長帯区分定義は、応用分野で、わずかに異なるので、要注意である。
UV光は、波長が短いため、屈折率の差、透過率の影響があり、光の取り出し効率への配慮が必要にある。
UV-Aでは、シリコーン樹脂系のレンズ封止も使えるが、UV-Cでは、シリコーン樹脂系は採用できず、テフロン系のものや、石英系の成形ガラスレンズなどが使われる。
ガラスの一般接着剤系での固定ができないため、ガラス素材プラス固定のための工夫も必要になる。
2.UV-A LED
350-365nm 発光のLEDデバイスが2000年ごろから一部販売されたが、当初はデバイス単価もきわめて高く、ガラスリッド、セラミックパッケージ、気密ハーメチック封止、ワイヤボンドで実装されていた。
一部は、砲弾型のものもある。
写真8はスタッドバンプ超音波フリップチップ実装された、シンプル小型のUV-A LEDデバイスである(2014年)。
写真8 樹脂封止型小型UV-A LEDフリップチップ実装 Y2014
樹脂モールド封止で対応できている。
筆者も、1989年ごろ、紫外線透過型エポキシ樹脂封止技術(一部UV-C領域も透過)を開発した。
その時は、紫外線透過エポキシ樹脂を総当たり戦で調べたが、後になって、脂環式タイプのエポキシが有効であることが分かった。
UV-A LEDの主な用途しては、紫外線硬化型の樹脂やインクの短時間硬化、偽造検出、偽ブランド防止、非破壊検査などである。
話題を集めたのは、ネイルキュアのヒットである。
半導体実装工程では、ダイシングテープ、バックグライディングテープなどから、半導体を取り外すのにテープに紫外線照射している。
以前は、水銀灯が長い間使われてきていた。
写真9は、(株)テクノビジョン社製の、卓上型UVフィルム硬化装置であるが、10年以上前から、UV-A LEDデバイスを、採用した装置を開発してきた。
写真9 UV-A LED採用フィルム硬化装置
水銀灯と違って、LEDではON/OFFを容易にできるので、大幅な節電効果、ランプ長寿命化、ランプ減衰に合わせた調整がほぼ不要であることなどから、LEDタイプの装置が主流になってきている。
水銀灯に比べて、熱も少ないので、テープ材料によっては、UV LED装置が必須である。
写真10は、そのUV LEDモジュール基板であり、複数のSMDタイプデバイスを、高熱伝導性基板に、並べて実装している。
写真10 UV-A LEDモジュール基板
当初は水冷基板が必須であったが、LEDデバイス性能がさらに向上し、現在は空冷で十分対応できる。
3.UV-C LED
2013~15年ごろになると、270-285nmのUV-C LEDが、水処理殺菌装置などに使われ始めた。
最近はコロナ対策ツールにもなり、あちこちで話題になっている。
UV殺菌は、UV-C 光照射により微生物の遺伝子などに損傷を与え、自己増殖を奪う、不活化技術である。
薬剤が不要で、有害な消毒副生成物を生じない。
UV-C LEDを採用すると、水銀灯に比べて、衝撃にも強く、小型化や自由なレイアウト設計ができ、間欠運転対応など、そのメリットは大きい(※)。
写真11は、2018年のUV-C LEDデバイスで、Auスタッドバンプにより、フリップチップ実装されている。
写真11 UV-C LEDフリップ実装 Y2018
写真12は、2019年のUV-C LEDデバイスであるが、Auスタッドバンプの配置も確認できるX線透過イメージである。
写真12 UV-C LEDフリップ実装 Y2019
4.無機絶縁層基板採用特殊照明
写真13は、日本で製造されている、1,200W超高輝度LED COBモジュールで、無機絶縁層上のAg印刷配線基板に、なんと3,300個ものLEDダイが、発光面70㎜角内に、ワイヤボンド実装されている。
写真13 発光面70mm角3,300個 LEDダイ ワイヤボンディング 1,200W COBモジュール
点光源的特性からダム建設現場、景観照明などの長距離投光器としても採用されている。
また無機絶縁層を使用しているために、耐紫外線や耐放射線特性にも優れている。
紫外線用途では、水の殺菌などに、この基板がすでに使われている。
さらにこの無機絶縁層基板の耐放射性を用いた、15kGy耐放射線設計の原子力発電所の使用済燃料プール用水中照明、120kGy対応原子炉格納容器高天井用ランプなどを写真14に示す。
写真14 耐放射線設計LED特殊照明
原子炉内デブリ調査用照明では2MGyの耐放射線特性が要求される。
普通の樹脂系、テフロン系、一般ガラスも通用しない。
この特殊無機絶縁層基板を使った実装技術により、写真15の特殊RGBランプが原子炉内調査用2MGy仕様(10KGray(Gy)/hr×200hr)にも耐えうることが確認された(写真16)。
写真15 2MGy RGB耐放射線照明
写真16 2MGy 耐放射線照明 γ線照射実験
人間が全身放射線被ばくした場合、4Gyで、1~2か月で半数致死に及び、7Gyは特殊治療を施さなければ、100%致死線量になり、50Gyで、1~2日で100%死亡するそうである。
以上、各種のLEDデバイスと実装推移について紹介したが、多種多様の実装技術が使い分けられており、新規用途に適合した新しい実装形態が、即座に導入されていることが確認できる。
■欄外コラム 飛行高度と放射線量の関係と機内パーティクル
香港と日本を行き来する飛行機の中と、2019年ECTC実装学会参加の途中で、機内で受ける放射線量を実際に測定してみた(図1)。
図1 民間機飛行中の各飛行高度での線量率実測値
香港から日本へ向かうエアバスA350-900は高度12,500mの実用範囲高高度を飛行したが、線量は2.5uSv/hrにも達しなかった。
アメリカ行きのフライトでは、高度1万m超えた付近から、線量が増え、1万700mでほぼ3uSv/hrレベルに及んだ。
いずれにせよ、頻繁に飛んでも、大きく影響しないレベルある。
無機絶縁層基板採用の2MGy耐放射線LED特殊照明 の強さを改めて感じた。
またA350-1000の機内でのエアパーティクル数も測定した。
測定結果は0.5μm粒子がほぼカウントできない、びっくりするほどの少ないパーティクル数で、一般実装アセンブリ工場よりも良好であった。
0.3μm粒子で500-1,000個/CFレベル。
2019年2月の測定であるので、搭乗者はそれなりにあったが、空気清浄HEPAフィルタが実力を発揮しており、昨今の状況では、このA350に乗れば、とりあえず安心できそうである。
できれば、他の機体でも測定してみたいのだが、次のフライトをじっと我慢強く期待して待っている。
<参考資料>
・小熊久美子、東京大学先端科学研究センター、JLEDSセミナー資料2016年
- 会社名
- Grand Joint Technology Ltd.
- 所在地
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