1. はじめに
「人生感動の温もり一生大事」。
感動は人との出会いから生まれ、支えられ助けられ、人も企業も成長する。
だからこそ感謝して、未来に多くの出会いを大切にするきっかけになればと感動の心で運を引き寄せてきた創業者の信念である。
この創業者からの教えがあり、私自身が多くの人と出会うために率先して全国を巡り、お客様や取引先様、また異分野のいろいろな人たちとの出会いに感謝しながら仕事をし、少しは人の成長と事業の成長ができているのではないかと考える。
多くの人との出会いや支えに助けられ開発を進めてきた1つの開発品が透明フレキシブル基板『SPET』である。
透明フレキシブル基板『SPET』を写真1に示す。
写真1 透明フレキシブル基板『SPET』
もともとフレキシブル基板は、電子機器の中で使われることが多いため、基板自体を目で見ることはない。
私がこれまで開発に携わってきた製品は、黒子の開発ばかりで、異業種の人たちに何の職業をしているのかを説明する時に「目で見える商品を開発できれば良いな」と常に想っていた。
透明フレキシブル基板は、その想いを具現化した製品である。
いまでは高耐熱透明フレキシブル基板、透明ヒータフィルム、透明アンテナ向けフィルム、3次元立体配線用フレキシブル基板などもラインナップに追加された。
今回は、これら透明フレキシブル基板『SPET』シリーズについて紹介する。
2. 透明フレキシブル基板
透明フレキシブル基板は、透明なサブストレートフィルムをベースとして、導体を形成したフレキシブル基板のことを表す。
表1に、透明フレキシブル基板の組み合わせ一覧を示す。
表1 透明フレキシブル基板の組み合わせ一覧
透明なサブストレートフィルムは、ポリイミド(PI)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、液晶ポリマ(LCP)、ポリエーテルサルホン(PES)などの基材を用いる。
その基材上に、酸化インジウムスズ(ITO)、銅箔、導電性インキ(PEDOT)、銀ナノインクなどで導体を形成する。
その導体の加工方法は、フォトリソグラフィ、印刷、めっき、スパッタなどが挙げられる。
さらに導体を保護する目的などから導体上に絶縁層を施すことが多い。
その絶縁層は、カバーレイ、フォトリソグラフィ、印刷などの工程で形成する。
このように透明フレキシブル基板は、基材+導体+加工+絶縁の組み合わせを基本として構成している。
どの組み合わせにおいても優劣があるが、最終製品に合わせて最適な組み合わせの透明フレキシブル基板の構成を決定する。
透明フレキシブル基板『SPET』は、基材にPET+導体に銅箔+加工はフォトリソグラフィ+絶縁に印刷を組み合わせた独自の透明フレキシブル基板である。
3. 透明フレキシブル基板『SPET』
透明フレキシブル基板『SPET』は、基材がPETで透明な接着剤を用いて銅箔を貼りあわせた3層フレキシブル銅張積層板(FCCL:Flexible Cupper Clad Laminate)であり、そのFCCLを加工してフレキシブル基板とした製品である。
特徴は、PETが持つ高い透明性と電気絶縁性を活かし、安価な透明フレキシブル基板の組み合わせとした。
ただ、このPETと銅箔の組み合わせだけだと耐熱性に欠けるため、メンブレンスイッチなどの用途に限定される。
そのため我々の透明フレキシブル基板『SPET』は、PETの耐熱性を補うために接着剤の耐熱温度を260 ℃まで高めることで、耐熱性が低い欠点を克服した。
耐熱温度を上げることにより、低温はんだに限定されるが一般のフレキシブル基板の自動実装と同じラインでの生産が可能となった。
さらに昨今では、耐熱温度をより高くする製品の要求があり、サブストレートに耐熱温度が260℃ある接着剤を用いることで、リフロー耐熱性をさらに高めた透明フレキシブル基板『SPET-NN』の開発も行った。
図1は、透明フレキシブル基板『SPET』の断面構造である。
図1 透明フレキシブル基板の断面構造
この断面構造からサブストレートとしてPETを除いた2層FCCLで加工した製品が『SPET-NN』である。
透明フレキシブル基板『SPET』は、この耐熱性と透明性を活かして、例えば写真2のようにLEDをドットマトリックスに配置して、透明なディスプレイなどにも採用されている。
写真2 透明LEDドットマトリックス
さらに、LEDを小型化したミニLEDやマイクロLEDを透明フレキシブル基板に搭載した高解像度透明ディスプレイの開発も進んでいる。
また、透明フレキシブル基板『SPET』の比誘電率は2.77とLCPと同様に低く、高速伝送用コネクタのはんだ実装が可能である。
また、透明フレキシブル基板『SPET』は伝送損失を抑える仕様であるため、第5世代移動通信システムに対応した透明アンテナとして採用されている。
このように、透明フレキシブル基板『SPET』は、多くの用途で使われはじめている。
4. すぐに暖まる透明ヒータフィルム
透明ヒータフィルムは、表2のように4種のヒータ線の種類に大別することができる。
表2 代表的な透明ヒータ大別
“すぐに暖まる透明ヒータフィルム”は、透明ヒータ線の種類大別でいえばメタルメッシュ型を使うことが多い。
メタルメッシュ型は、透明性の優位性は他の種類よりも少し劣るが、ヒータが暖まる速度は優れる。
このように代表的な4種のヒータにおいてメリットやデメリットがあり、透明フレキシブル基板と同様に透明ヒータも必ず1つの方法が良いと言える状態ではなく、製品の要求に合わせて最適な組み合わせで透明ヒータフィルムを形成する必要がある。
改めて、“すぐに暖まる透明ヒータフィルム”の特徴は、
① 高透明なサブストレート
② 低抵抗な導体
③ 高耐熱なヒータフィルム
である。
全光線透過率は92%であり、透明フィルム素材の中でも透明性が高く、安価で加工しやすい材料を採用した。
ヒータ線は、銅を用い他の種類のヒータよりも低い抵抗値を実現している。
さらに、ヒータの導体厚を厚くすることでシート抵抗は1.42mΩ/□となり、ITOヒータなどと比較して抵抗値は小さい。
そのため即暖に対応できる。
また、サーミスタなどの電子部品を実装することで、透明ヒータのヒータ面の温度制御ができることが“すぐに暖まる透明ヒータフィルム”の特徴である。
メタルメッシュ型ヒータは、ヒータ要求によってスペックを変え、昇温性能や透過率などの要求値を満たすカスタム設計を行う。
写真3は、“すぐに暖まる透明ヒータフィルム”の採用事例の後付けヘッドランプヒータである。
写真3 ヘッドランプヒータ
ヒータが高透明であるため、ヘッドランプ前に貼ってもヘッドランプの照度に影響がなく、ヘッドランプに付着した雪を解かすヒータ性能を備えている。
夜間の積雪時の走行でもヘッドランプの光で地面を照らすことができる。
このように“直ぐに暖まる透明ヒータフィルム”は、特に車載関係の融雪、防曇向けに採用が進んでおり、先進運転支援システム(ADAS)などでも期待されている。
5. 3次元立体配線用フレキシブル基板
“3次元立体配線用フレキシブル基板”は、これまでにはない伸びる透明なフレキシブル基板である。
これまで伸びるストレッチャブル基板として、伸縮する基材に伸びる金属インキを組み合わせた基板がある。
ただ、このストレッチャブル基板は伸びる反面、金属インキを伸ばすことで抵抗値が変化する欠点がある。
また、同様に伸縮する基材に、導体を蛇腹状として伸縮するフレキシブル基板もある。
蛇腹状の方向には自由に伸びる利点があるが、方向性に制限がある。
写真4に、“3次元立体配線用フレキシブル基板”を示す。
写真4 3次元立体配線用フレキシブル基板
伸び率に制限はあるが、基材と導体はどの方向に対しても伸びる特徴がある。
さらに、抵抗値の変化もない。
自由に伸びる特性を活かし、賦形やインサート成形が可能であり、プラスチック一体型の3次元立体配線ができる。
従来、成形回路部品(MID:Molded Interconnect Device)があるが、めっき工法とは異なり伸縮できるFCCLを用いて3次元立体配線を可能にした。
一番の理由は、MIDは成形回路部品として一体化できる長所があるが、3次元実装をしなければならない作業性の悪さがあり、作業性の悪さを解決するために平面実装をしてから賦形、インサート成形ができる3次元立体配線とした。
このように賦形、インサート成形ができる耐熱性をもたせ、成形樹脂との相性も考慮してサブストレートをポリカーボネート(PC)などの選択もできるのが特徴である。
このように“3次元立体配線用フレキシブル基板”は、賦形、インサート工程にかかる熱に耐えることと、導体が伸びることで3次元化できプラスチック樹脂と一体成形できることが特徴な透明フレキシブル基板である。
6. 最後に
このように透明フレキシブル基板『SPET』シリーズは、多様な組み合わせを行うことで、さまざまな用途で採用をしていただいている。
これら採用ごとに目で見える商品の開発が世の中に送りだされ、製品開発にワクワクする想いと、自分の仕事が何なのかを説明したい想いは達成できた。
この透明フレキシブル基板『SPET』は、創業者の教え通りに、多くの人と出会うきっかけとなり、多くの出会いから生まれ成長している製品である。
私は、エンジニアリングマネージャーであるが、優れた技術能力やマネジメント能力をもっているわけではない。
ここまで透明フレキシブル基板『SPET』が、市場に評価され製品展開が進んでいるのは 99.9%は運が良かっただけだと考えている。
その運を引き寄せたのは、私自身が何の優れた能力を持ち合わせていないが、感動する心があったからではないかと振り返る。
このように、出会った人すべてに助けられ、企業も人も成長している感動が得られている。
この感動をさらに得るために、2021年度から透明フレキシブル基板『SPET』は、事業体として立ち上げ、2022年度にはADASや5Gアンテナの採用を増やしていき、事業体としてさらに多くの人と出会い、運を呼び寄せていく製品として完成をさせていきたい直近で実現したい夢がある。
この夢を実現して、その先にあるコンソーシアム全員が幸せを感じ、さらに豊かになり、優秀な技術者が活躍できるコンソーシアムとして、一歩一歩進むことで大きな夢も実現したいと考える。
社是の「学働悠遊」のように、コンソーシアムがバランスの良い人生になるように強く願う。
<参考文献>
1)白井治夫、「感動の温もり、一生涯の宝」、ダイヤモンド社(2016.11)
- 会社名
- シライ電子工業(株)
- 所在地
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