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テクニカルレポート
2015.07.17
トヨタ自動車デザイン部におけるデジタルマニュファクチャリング①
豊橋技術科学大学・武藤研究所

 

  基本ラインが入力されると、それらを基に3次元モデリングが行われる。図3(a)1)はその共同作業の様子で、画面内のモデルは『ソアラ』である。(b)1)はデザイナー自身がシステムを使いこなしている様子を示す。画面内のモデルは『ハリヤー』である。フロントフェンダーの面のつながりを曲率で検討している。ここで生成されたモデルデータはワイヤフレームである。図3(c) 2)、図3(d)2)は2Dから3D化への作業風景を示す。トヨタでも若い感性をもったデザイナーが活躍し、台頭し始めている。(c)のモデルはオーリス、(d)のモデルはセリカである。

(a)デザイナーとオペレータの共同作業

(b)システムを使いこなすデザイナー

(c)スケッチから3D化作業の風景

(c)スケッチから3D化作業の風景

(d)進化する3D化作業の風景

図3 スタイルCAD作業(トヨタ自動車提供)

その後、面張り(車のボディ表面の作成)が終了すると、後述するハイライトチェックや曲率などの検査機能を用いてボディ表面の面評価を行う。これらの評価結果からの修正内容をモデルに織り込み、目的の最終形状を完成させる。

 さて、奥田碩氏が新社長に就任した年の翌年の1996年に発表された8代目 (X100系)『マークⅡ』を図41)に示す。次の世界基準としてBEAM (Breakthrough Engine with Advanced Mechanism System:先進機構を備えた画期的なエンジン)、VSC(Vehicle Stability Control:横滑り防止機構)、ABS(4-wheel Anti-lock Brake System:制動時のタイヤロック防止機構)、GOA(Global Outstanding Assessment:衝突安全ボディ)、4-Airbagsの4つを標準装備して登場し、センセーションを巻き起こした。その『マークⅡ』のエクステリアのスタイリングCADによるワイヤフレームモデルの全体データを図5に示す。

  図51)に示したワイヤ、つまり線はその車の形状、特に特徴を表すことからキャラクターラインと呼ばれ、敢えて日本語訳すれば特徴線となる。特にフロントマスクから発したスラント(傾斜した)なボンネット上のダイナミックなキャラクターライン(特徴線)は、イーグルマスク(鷲のような顔立ち)と呼ばれる立体的なフロントマスクに仕上っている。このフロントマスクから発したボンネット上のキャラクターラインは、Aピラー(A柱、車両前部)の下に、風を切り分けるように入って、それがBピラー(B柱、車両中心部)、Cピラー(C柱、車両後部)を経て、トランクにまで一気に抜ける伸びやかなデザインとなっている。

図4 8代目ニューマークⅡエクステリア外観(トヨタ自動車提供)

図5 スタイリングCADによる8代目『マークⅡ』エクステリア全体のワイヤフレームデータ
(トヨタ自動車提供)

  その中でも特にフロントマスクから発するボンネットの上のキャラクタラインは、ライン(線)というよりも帯状のフェイス(面)、特に3次元自由曲面になっており、その段差の大きい面創生は圧感である。

 この3次元曲面で構成された丸いボディにシャープにとけ込んだそのダイナミックなキャラクタラインの流れを金型によって実現するには、高度な技術が必要である。そのダイナミックなキャラクターラインの流れを実現するため、詳細は次回以降で後述するが、第1回の図4に示したDMU(Digital Mock Up;デジタルモックアップ)技術やV-comm(Visual & Virtual communication)と呼ばれるトヨタ独特の開発技術を活用して、デザイナーは生技部門の技術者と金型設計・製作に関して十分な検討をしている。

 その金型の製作工程では4面のフィレットがけやトリム処理、ぼかし面などの複雑で難しい修正が必要なため、プレス成形後のボンネット成形部位の形状は、デザイナーの意図しない面形状になることが多い。この処理は非常に困難を要するが、生産技術部の技術者の努力によってデザイナーの意図どおりに金型製作がなされる。

 このように、本物のデザイナーになるためには、当然生産技術の知識も必要であり、それにかかわるスタッフたちの協力も必要である。

2.カラーCAD

図6 カラーCAD(トヨタ自動車提供)

  カラー計画ではMac(Macintosh:マッキントッシュ)上で動かすカラーCGソフトウェア(カラーCAD)が使われる。意匠評価としてはレンダリングのチェック、面質評価ではシェーディングやハイライトチェックが行われている。

 また、ユーザーの嗜好は変化するし、そのうえ国の風土の影響によっても色彩が微妙に異なるため、高品質のカラー検討が必要となる。カラーCADではそのようなエクステリアカラー検討を行う。従来、『塗板』と呼ばれていたサンプルシートを外光に当てることで評価するという原始的な作業をデジタル画像技術に置き換え、スタイリングCADと連携させている。図61)に示すのは、カラーCAD上でモデルと作業風景をリアルに再現し、評価・検証を行っている様子である。

引 用 文 献

1)武藤一夫、図解CAD/CAM入門、大河出版、2012

 

 

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