テクニカルレポート

2020/12/11 / テクニカルレポート

そろそろ本当の公差設計の話をしよう!

〜車載電装品から学ぶ、“ゼロ・ディフェクト”実現のための公差解析(後編)〜

Nakadeメソッド研究所  中出 義幸 氏

 

 

2.プリント基板の位置決め設計

 

 筐体の2本の突起に、穴2ケを設けたプリント基板を嵌合させる(図18)。

 

図18 事例の基板図 

 

 

 下記の寸法公差が指定された場合、突起寸法に対して基板の穴径は、最低どれだけ大きくしなければならないか。

 

 積上げ法と確率法で求めてみる。

 

公差値

 

穴間距離…A:±0.1

 

穴径…ΦB:±0.05

 

突起間距離…C:±0.1

 

突起径…ΦD:±0.05

 

 

①積上げ法=0.1±0.05±0.1±0.05=0.3

 

②確率法=√0.1²±0.05²±0.1²±0.05²=√0.025=0.158

 

 

 積上げ法だと、突起径に対して0.3以上、確率法だと、0.158以上穴を大きくしなければならない。

 積上げ法だと穴と突起の差が、0.3もあり位置決めできない。

 また、確率法でも0.158のガタが発生してしまうことになる。

 

 

■対処事例(図19)

 

図19 基板勘合

 

 

 突起D=Φ3 0/-0.05、B穴の公差は、+0.05/0とする。

 突起Dの片側公差を両側公差に変換すると、D=Φ3. 0/-0.05 ⇒ Φ2.975±0.025

 次に穴Bの寸法を、突起との最小ガタを0.03とすると、Φ3に0.03を加算して、さらに片側公差0.05を加味すると、

 穴B=Φ3.03 +0.05/0 となる。

 両側公差に変換して、穴B=Φ3.055±0.025,他方の穴は公差に余裕を持たせた長穴設計とする。

 具体的には、F寸法は、穴Bと同様に3.03+0.05/0とし、長穴のE寸法は、最悪でも突起が穴に入るように、Φ3に寸法Aと寸法C、穴と突起の公差を加算して、

 E寸法=3+(0.1+0.1+0.025+0.025)=3.25以上とする。

 E寸法は穴に突起が入ればいいので、最小値を3.3として、片側公差+0.3と設定してもよいことになる。

 結果:筐体の2本の突起に、穴2ケを設けた基板をガタなく勘合させるための最適な設計値は、

穴間距離公差A=±0.1と突起間距離公差C=±0.1、突起ΦD=Φ3 0/-0.05、穴B=Φ3.03 +0.05/0、穴幅F=Φ3.03 +0.05/0、長穴幅E=3.3 +0.3/0、となる。
設計ポイントは、1つの突起Dと穴Bで位置決めをしてx方向のガタを抑制し、y方向はF寸法で規制して、E穴は最悪公差の長穴幅を設計すれば、ガタを最小に抑えられる。

 さらに、ガタを「ゼロ」にしたい場合は、突起ΦDに小さな△リブをつけて、基板挿入時にリブを潰して圧入勘合させることや、突起にテーパを付けて、根元でガタを抑える設計手法を使うこともある。

 

 

3.樹脂への板金圧入設計:樹脂筐体にブラケット固定の設計(図20)

 

図20 ブラケット

 

 金属製ブラケットを樹脂製筐体に挿入勘合させる構造設計をする場合、ブラケットの位置決め用の突起凸を下面に2個所基準面として設けて、上面にはブラケットを圧入固定するための△のつぶしリブを設置することで、ブラケットを筐体に挿入した際に、筐体に設けた△リブが圧入寸法分、つぶれてブラケットが固定でき公差計算なしで品質保証ができることになる。

 ただし、勘合する筐体の根元にはコーナRを設けること。

 

 

4.プッシュ操作スイッチ構造設計

 

 プッシュスイッチの要件としてプッシュボタンのガタをなくすために、プリロードX寸法を、0~-0.3に設定する構造設計において(図21)、X寸法公差を積上げ法と確率法で求めてみる。

 

図21 プッシュボタン構造 

 

 

 図中①~④の、おのおのの寸法値

 

①10±0.1(設計基準面から筐体爪までの高さ)

 

②5±0.05(筐体爪からボタン先端までの長さ)

 

③0.05 0/-0.05(スイッチのはんだ実装浮き)

 

④5+0.2/-0.1(スイッチ高さ)

 

 A=①-②

 

 B=③+④

 

 

 プリロード寸法X=A-B

 

③と④の片側公差を両側公差に変換する。

 

③0.05 0/-0.05 ⇒ 0.025±0.025

 

④5 +0.2/-0.1 ⇒ 5.05±0.15

 

 

■積上げ法

 

A=10-5±(0.1+0.05)=5±0.15

 

B=0.025+5.05±(0.025+0.15)=5.075±0.175(4.9~5.25)

 

X(積上げ)=A-B=5-5.075±(0.15+0.175)=-0.075±0.325 

 

X寸法は、-0.4~+0.25になり、プリロードが0.4から隙間が0.25の範囲で空くことになる。

 

 

■確率法:

 

 X(確率)=A-B=5-5.075±√0.12+0.052+0.0252+0.152=-0.075±0.189 

 X寸法は、-0.264~+0.114で、プリロードが0.264から隙間が0.114空くことになる。

 積上げ法も確率法も、設計要件Xのプリロードの、0~0.3を満足しないことになる。

 対応策として、スイッチへのプリロードが、隙間が空かないように現状部品の実力値調査と、X寸法のずれを修正する金型調整個所を示すことが必要になる(図22)。

 

図22 プッシュボタン計算グラフ図

 

 

■現状部品の実力値

 

 スイッチはんだ実装浮き:③=0.01±0.01

 スイッチ高さ:④=5.05±0.075

 よって、Bの実力値は、B=③+④=0.01+5.05±(0.01+0.075)=5.06±0.085(4.975~5.145)

 したがって、Aのねらい目寸法は、4.975以下になり

 設計要件Xのプリロードが0~0.3より、Xの公差範囲は、±0.15となる。

 Bの実力公差が、±0.085なので、現実的にAに許容される公差は、残りの0.15-0.085=0.065となる。

 結論は、④はスイッチ高さの実力値と、③の実装はんだ浮きの実力値と、①の設計基準面から筐体爪部までの寸法を固定して、最終的には、スイッチを押すボタンの寸法②を金型改造可能なように金型を浅く作っておいて、最悪プリロードが印加されるように、現物に合わせて金型を削って設計を成立させることが最適な手法になる。

 これは①③④寸法が、設計ねらい値からずれた場合に、ずれを補正することに有効に働く効果がある。

 最終判断としては、ボタン寸法②の金型寸法を最初は調整可能に浅くしておいて、金型削り方向で、その他①、③、④を加味して、ボタンにプリロードが印加されるように現物調整を行う(図23)。

 

図23 金型調整個所

 

 

4. 公差設計実践! 2stepのすすめ

 

 上記事例のように、0.3%の不良を容認する確率法でも設計が成立しない場合が多いことから考えて、ものづくりから考えた公差設計を、設計構想時と製品量産後の2stepで実践することをおすすめしたい。

 

①step1(設計時)…積上げ法で公差計算し、ものづくりで調整可能な設計成立の考案

 

②step2(量産後)…工程管理のための確率法の適用

 

その他、考慮すべき内容として、

 

・金型の耐久摩耗による寸法変化!⇒プレス品は、最初は寸法が小さい。

 

・材料削減のマイナス公差品⇒コイルばね、板材

 

・定尺品⇒プリント基板

 

 

 がある。

 

 

 

5. 最後に

 

 ほとんどの設計者は中身を十分理解しないまま確率法で公差計算を行うが、確率法は正規分布が前提で、必ずしも公差値が3σに入る保証はない。

 また、0.3%の不良も許容しなければならない課題があると共に、実際には狙い寸法に対するズレも生じる。

 ものづくりのばらつきが実際の製品性能そのものになり、材料、形状、金型構造を考慮した、「積上げ公差で設計」をした後は、「確率法で工程管理をする」ことが現実的である。

 すなわち、成形部品のヒケ、倒れ、抜きテーパ、突き出しピン、パーティングライン、ゲートを考慮して設計の基準面と公差を決め、さらに金型調整可能な構造を考案することが、設計の手戻りがなく最もものづくり側が喜ぶことである。

 利点として、製造現場から意欲的に協力してもらえ、工程品質も抜群に安定する方策になる。

 確率法の計算に工数をかけるよりも、加工技術や樹脂成形シミュレーションに注力した方が、設計完成度が格段にあがり、技術者の育成にもつながる。

 私の経験では実際の開発現場は、設計が成立しないからと言って決して数値だけで公差を厳しくすることはしない!なぜならば設計が決めた構造、形状、設計仕様で、もののばらつきは決まってしまうからであり、設計を改善しないことには公差は縮まらないのである。

 ばらつきを小さくすることは容易ではないが、今回執筆したように、金型修正可能な構造にしておけば、狙い値に対するズレを修正することで設計を成立させることが可能になる。

 現在、世の中で教えられている公差設計は、筆者からいわせれば数字のマジックであって、本来は現場のものづくりを理解して初めて可能になる。

 そのためには樹脂成型技術、金型加工技術を習得する必要がある。

 これらは公差設計と切っても切れない関係があるが、公差設計という切り口で総合的に教える教育現場がないことが残念である。

 それは各企業の個々人のノウハウであり開示できないことと、総合的に教えることの難しさがあるのではないかと感じている。

 昨今、IOTやAIが進歩しているが、結局は先人のこれまでの経験をデータベース化して活用しているに他ならない。

 やはり「K・K・D」が大事であり、これを仕組み化することがこれから生き残っていける企業になると思う。

 「K」と「K」の「勘」と「経験」は同じ意味なので、筆者は、これにセンスを加味して、「K(経験)」「S(センス)」「D(度胸)」として提唱していきたい。

 設計された製品が品質問題を起こさないためには、最初から未然防止を織り込んだ設計をしなければならないが、大切なのは設計の詰めの部分であるものづくりを熟知した公差設計の実践であり、DRBFM、FMEAの最終の落としどころは、この公差設計の結果で決まることになる。

 本稿は筆者のこれまでの経験と、現在設計現場で直面していることを事例として記載をしたが、品質問題未然防止法DRBFMに加えて、ものづくりの道理から考える公差設計・解析を、少しでもマスターしていただければと切に願うばかりである。

 

 

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