スペシャルインタービュー

2020/12/04 / テクニカルレポート

そろそろ本当の公差設計の話をしよう!

〜車載電装品から学ぶ、“ゼロ・ディフェクト”実現のための公差解析(前編)〜

Nakadeメソッド研究所  中出 義幸 氏

 

 

1. はじめに

 

 車載電装品の品質は“ゼロ・ディフェクト(※1)”が求められる。

 筆者の経験では品質問題が発生する原因は、気が付かなかったか、設計の詰めが甘かった、の2つしかなかった。

 1つ目の、「気が付かなかった」については、品質問題未然防止法DRBFM(※2)で対処し、2つ目の、「設計の詰めの甘さ」は、公差設計で対策することになる。

 この2つは主従の関係にあり、これらを実践して初めて設計完成度が向上し、品質問題を撲滅することができる。

 ところが2つ目の公差設計において、現在筆者が教えている開発現場で混乱が生じている。

 その原因は巷で行われているセミナーにある。

 製造コストを理由に確率論を教え、これを受講した設計者は、中身を十分理解しないまま確率論を盾に、自己の未熟な設計の妥当性を主張するのである。

 その結果、設計者として本来身につけなければならない、「ものづくりと公差設計の本質」を理解しないまま、製品開発を進めてしまい土壇場で設計の手戻りが生じている。

 実際に設計者に公差値を決めた根拠を問うと、現行図面の流用や、このくらいなら入るだろうとか、一番ひどいのは、ものづくりは考えずに設計が成立するように値を決めたというのだから後工程が混乱するはずである。

 これらは公差設計以前の問題で、準備運動をせずに見よう見まねでいきなり競技をするのと同じで、公差設計の前に自分が決めた設計手段でおのずと公差値が決まってしまう、「ものづくりの道理」を理解すべきである。

 本稿では公差設計をする前にものづくりを考慮した、設計者のスキルアップに直結する構造設計について、

 

 

① 公差設計をどのようにしたらよいのか

 

② 設計基準、金型構造、樹脂成型、材料特性を考慮した設計の大切さ

 

 を、筆者の実体験から設計の勘所としてお伝えする。

 

 (※1)ゼロ・ディフェクト(Zero-defect):『不良ゼロ』という意味。

 ものづくりを熟知した設計理論と、無駄を徹底的に削減した製造工程で、お客様に最高の品質を提供することにつなげること。

 (※2)DRBFM(Design Review Based on Failure Mode):「創造的FMEA」を使ったデザインレビューのことで、その心は、「衆知を集める」です。

 

 

 

2. 現状の課題

 

 品質問題未然防止対策でせっかくDRBFMを行っても、最終的に設計の詰めが甘くて問題を発生させてしまうケースが多い。

 設計の詰めを行うべき公差設計において、困ったことにほとんどの設計者は、ものづくりを理解しないまま確率法を適用してしまい、このことが原因で設計の手戻りが生じている。

 設計要求値とものづくり側でのばらつき値は、車の両輪の働きをなすもので、車載に求められる品質は、「ゼロ・ディフェクト」なのであるから、後述する不確定な公差設定と、0.3%の不良を許容する確率法の検討余地はないと考えている。

 現に筆者は26年間、1度も確率法で公差設計はしてこなかった。

 確率法は工程能力や市場での品質管理に活用すべきで、設計者はばらつきの要因を知った上で、設計基準を明確にして、設計の成立性をものづくり側で担保し、かつ対処が容易な構造を考えることが真に求められる姿である。

 

 

 

3. 公差設計と公差解析

 

1.公差概論

 

 以下に、公差概論として、用語を紹介する。

 

 

① 公差(tolerance)とは……

 

 機械加工の工作物の、許容される誤差の最大寸法と最小寸法との差のこと。

 

 

② 許容寸法と寸法公差……

 

 部品のある部分について実測された寸法を実寸法といい、実寸法として許される最大値を「最大許容寸法」、最小値を「最小許容寸法」という。

 この両寸法の差が、「寸法公差」になる。

 

 

③ 公差を設定するとは……

 

 部品を製作する場合、実際には完全にその寸法どおりに、仕上げることは不可能である。

 たとえば長さ100mmの棒を作るとき“±1mm”の範囲で長さが違ってもよい!とすること。

 この場合、図面記載は、100±1とする。

 

 

④ 公差設計とは……

 

 製品設計上、部品に許される寸法、形状のばらつき範囲を決めること。

 

 

⑤ 公差の適用範囲……

 

(1)物理的な寸法や面積

 

(2)原料、製造物、システムなどの測定値や物理的特性

 

(3)温度、湿度などの環境特性

 

 

⑥ 公差設定の注意点……

 

 公差はコストや品質に大きく影響するため、ものづくりを十分理解して公差設計をしないと歩留まりが悪くなる。

 さらに不適切な公差は品質問題の発生につながる。

 

 

⑦ 加工上の公差……

 

 部品の加工上の公差は、両側振分け公差±を採用することが多い。

 したがって設計公差が片側公差であっても、一旦、両側振り分け公差に置き換えることを設計者は理解する必要がある。

(出典:コトバンク https://kotobank.jp/word/ Mitsuri https://mitsu-ri.net/articles/tolerance

 

 

2.公差解析の必要性

 

(1)公差解析の目的

 

 公差解析とは、製品性能から部品に許される寸法、形状のばらつき範囲を決め、複数の部品を組み合わせたときの組み立てばらつきの範囲を推定することで、量産前にものづくりを設計に反映して品質やコストを最適な状態にすること。

 ものづくりを考慮した公差解析を怠ると、過剰な公差や重要管理寸法の見落しで設計の手戻りが生じ、ロスコストや開発日程の遅れが発生する。

 設計の早い段階でものづくりを考慮した公差解析を行うことで設計の手戻りをなくし、開発日程の遅延防止ができる。

 さらに製造現場で発生する「組み立てにくい」「性能が満足できない」などの問題をなくし、製造負荷の低減にも効果を発揮する。

 すなわち公差解析の目指すところは、「設計要求値」>「部品ばらつき」の関係を成立させることである。

 

 

(2)公差解析の適用事例

 

 公差解析の事例とその影響を以下に示す。

 

 

① 部品の干渉……組み立てや機能に影響

 

② 操作スイッチのON-OFF余裕……スイッチ不具合

 

③ 部品間隙間の均一性……外観品位に影響

 

 

(3)ものづくりのばらつきの考慮

 

 部品を組み立てて製品にする場合、おのおのの部品寸法は必ずものづくりでのばらつきが生じる。

 このばらつきは、使用環境の温度、湿度によっても変化する。

⇒これらばらつきが設計公差内に収まり、ばらつきを許容しても製品機能・性能を満足しなければならない。

 製品構造から各部品に許される公差はおのずと決まるが、それに部品側が対応できるかが重要になる。

 

 

ばらつき要因

 

① 部材、加工方法によって生じるばらつきや変形

 

② 温度などの環境によって変化するばらつき

 

 さらに、使用することによる摩耗も考慮しなければならない。

 

図1 真の公差設計 

 

  

 ものづくりを考えた場合、可能な限り設計上最大の公差を指定することが求められるが、「ゆるい」公差では製品性能に問題が生じる可能性があり、「厳しい」公差は、達成が難しく管理面の負担やコストアップにつながる。

 公差は安全率と同様に、適切な公差を考慮する必要がある。

 重要!⇒ものづくりのばらつきは、設計者が決めた設計仕様の構造、形状、材料、サイズでおのずと決まってしまうことを理解することが大切!

 

 

(4)公差値は設計者の意図を示す

 

 以下に、片側公差の事例を上げる。

 

 

・箱と棒のハメあい……

 

 長さ100mmの箱に100mmの棒を入れる場合、寸法がバラついても必ず棒が入るように片側公差で設計意図を示す。

 

 

・設計意図……

 

 最悪でも、箱と棒の隙間を0.1確保したい(図2)。

 

隙間=箱長さ-棒の長さ=100.1⁺⁰`¹/⁰-100.0⁰/⁻⁰`¹

=0.1⁺⁰`²/0⇒設計許容値の隙間:Min:0.10~Max:0.30

 

図2 箱と棒 

 

 

 しかし前述のように、実際に金型加工する際に、片側公差表記ではなくて両側振り分け公差で行うことが多い。

 したがって、図面には両側振り分け公差で、

 

 

・ 箱の長さ=100.15±0.05
 

・ 棒の長さ=99.95±0.05

 

 

 とすることが多い。

 ここで、重要管理寸法などで設計意図を表したい場合は、( )寸法として、片側公差表示をするとよい。

(出典:CETOL 6σサイトマップ https://www.cybernet.co.jp/cetol/

 

 

 

3.公差の種類

 

 公差には寸法の許容値を表す、「寸法公差」と、形状、形体の許容値を表す、「形状公差(幾何公差)」の2種類がある。

 近年、寸法公差をサイズ公差と表現することもある。

 

 

(1)寸法公差

 

 寸法のズレがどのくらいまで許せるかの差のこと。

 

 

(2)形状公差(幾何公差)

 

 形状、形体の狂いがどこまで許せるかの差のこと。中心軸など、寸法ではなく位置の関係における公差。

 

 

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