ブックタイトルメカトロニクス6月号2021年

ページ
44/52

このページは メカトロニクス6月号2021年 の電子ブックに掲載されている44ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

メカトロニクス6月号2021年

44 MECHATRONICS 2021.6 バルブ(弁)は液体や気体などを通したり、止めたりなど流体を制御するための開閉機構である。 バルブは気体や液体などの流体を「流す」、「止める」、「逆流を防止する」、「量を調整する」などの働きを担っている。今回は「バルブ」について紹介する。1. バルブ産業 水道の蛇口(水栓)もバルブであり、ガス管や水道菅といった身近な場所で使われるだけでなく、ビルや住宅設備、各種機械、建築設備、自動車、電力、石油化学、造船、半導体製造、医療機器、航空・宇宙、食品などと幅広い分野で用いられ、種類も多岐にわたる(写真1、2)。 配管に接続して流体制御の要として重要機器の役割を果たす。電磁弁は本体やシステム全体を遠隔監視することができ、災害時や緊急時には電気信号によって供給ラインを遮断し、2 次災害を防ぐ役割も兼ね備える。 安全・安心の社会基盤構築を下支えし、いろんな産業で使用されていて、流体制御の重要な役割を果たしているといえよう。扱う流体の液体や気体などの違い、可燃性、毒性といった性質の違い、圧力や温度の違いなどに合わせ、バルブの材質や構造も様々なものがある。 電磁弁と制御機器を組み合わせたシステムは自動で灌水や施肥を行う農業資材としても用いられる。近年では、植物工場で二酸化炭素濃度の調節を行う制御システムなどに参入をはかっているバルブメーカーもあり、応用例が拡大しつつある。 バルブ産業は、様々な産業の根幹となる巨大な市場の一つであり、世界で5兆円の市場規模で拡大基調にある。 バルブが一般の人まで知られるようになったのは池井戸潤原作の人気テレビドラマ「下町ロケット」に登場するセリフに「バルブを制するものはロケットを制する」の一節があり、このセリフでバルブの重要性を再認識させる形となった。日本のバルブ産業は、生産額、バリエーション、先進性で他国を圧倒している。 さて、日本バルブ工業会は、正会員114社、賛助会員65 社(2021-03-31現在)におよび、大手企業から中堅中小企業まで幅広くメーカーが存在し、百花繚乱の業界構造でもある。 日本バルブ工業会の設立の歩みは表1のように推移しており、1954 年3 月21日に「日本弁工業会」が設立し、8年後に現在の日本バルブ工業会の名称に変更して今日に至っている。この日を記念して3月21日は「バルブの日」として制定されている。 また、日本バルブ工業会では2007 年に「バルブ産業ビジョン」を策定し、2011 年に追補版を策定し、3 年ごとにアクションプランの実行と見直しを実施している。日本バルブ工業会は2016 年にはバルブの環境配慮設計を推進するために独自の環境ラベル制度である「環境配慮バルブ登録制度」を開始している。2. バルブの生産額・輸出入額推移 日本バルブ工業会が統計資料をまとめており、「バルブ工業概況調査報告書」を発行している。1)その資料を参考にして市場推移についてふれてみる。 日本のバルブ生産金額(経済産業省)は、図1に示すようにリーマンショックで減産に追い込まれた。そして2011 年3月11日の東日本大震災の復興需要の増加が見込まれたものの東日本大震災の復興の遅れなどによる国内需要の停滞、円高、欧州危機、尖閣問題による日中関係の冷え込みなどの影響で、2007 年レベルの4,500 億円台までは回復しないまま伸び悩んだ。 2014 年以降、回復傾向にあり、2017 年にやっと2007 年レベルを超え4,755 億円となり、少しピークアウトし、現在、4,600億円近い水準を維持している。 2021 年の東京オリンピックを控えた首都圏の建設・インフラ需要などに牽引されて国内需要は比較的に堅調に推移している。今後の各種インフラの老朽化対策もあり、一定の需要は見込めそうである。 海外へのバルブの輸出額は図2に示すようにリーマンショック以外は伸びている。 なお、この統計資料は財務省の貿易統計によるもので経済産業省の統計資料ではない。 急速な経済発展を遂げるアジアを中心としてインフラ需要の着実な伸長が見込め、多くのメーカーが海外需要の取り込みを積極化している。そして日本のバルブ関連製品が海外に浸透し始めている。アジア各国の経済成長を日本のバルブ産業が下支えしていることがうかがえる。 バルブ各社の海外生産シフトが進み、現地拠点からの輸入が増えているのは、国内メーカーの海外拠点からの逆輸入も含まれているためである(図3)。 表2は日本のバルブの輸出入国のTop5を2014 年と2019年の推移をみたものである。 輸出入のトップは中国で、次に米国が続く。世界の工場となった中国は、バルブの輸出相手国の中で伸びているのはうなずけられる。5 年後でも輸出先相手国および輸入相手国の順位の変化はない。 バルブの安全性や機能性の向上が求められており、日本の企業が対応している。3. 地場産業 彦根の三大地場産業は、「バルブ」、」「仏壇」、「ファンデーション(縫製)」の内で最大規模を誇るのがバルブ産業である。現在、彦根の特産物は3Bと呼ばれている。これは、バルブ、仏壇、ブラジャーのローマ字表記の1 文字目が全てBで始まることから3Bといわれている。 1887 年頃、仏具装身具の錺金具職人であった門野留吉翁が信州の製糸工場から繭を煮る設備に必要な蒸気カランの製作を頼まれ、錺金具の技術を活かして注文に応えたのがきっかけといわれ「彦根バルブ」の始まりといわれている。 当時の雇用形態は徒弟制度が主流で、門野翁のもとで修業を積んだ職人たちがノレン分けによって独立し、同族の分家も含め業者数が増え、近代的な第11回 バルブ産業の市場動向市場の生産統計とそのヒストリーちょっと気になる連 載写真2 水道管写真1 水栓金具表1 日本バルブ工業会の歩み日 時内 容1941 年3月日本バルブコック工業組合連合会1943 年7月日本弁製造工業組合1943 年1月日本弁製造統制組合1945年12月日本バルブコック工業協会1948 年8月バルブ協会1949 年8月全国バルブコック協議会1954 年3月日本弁工業会( 設立)1962 年8月日本バルブ工業会(JVMA)( 名称変更)1979 年7月社団法人日本バルブ工業会( 組織変更)2007 年3月日本バルブ工業会が「バルブ産業ビジョン」を策定2010 年4月バルブのイメージキャラクター「ばるちゃん」誕生2013 年4月一般社団法人日本バルブ工業会( 法人移行)2016 年11月日本バルブ工業会はバルブの環境配慮設計を推進するために独自の環境ラベル制度である「環境配慮バルブ登録制度」を開始