ブックタイトルメカトロニクス5月号2021年

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概要

メカトロニクス5月号2021年

MECHATRONICS 2021.5 451868年)まで遡るといわれ、荒川で良質な砂粘土が多く採れることから江戸時代に入ってから急速に発展を遂げたという。川口で鋳物が発展した要因としていくつかの点が挙げられる。 1つ目は、材料として、荒川や芝川に良質の砂粘土が産出したため、鋳型の製作に有利であった。 2つ目は、江戸・東京という大消費地に接しているため、大量の需要があったことである。 3つ目に運搬である。荒川・芝川の舟運の便があり、重量のある鋳物製品を消費地に運び、さらに材料の鉄や木炭を楽に運び込むことができたという交通の便に恵まれていた。 4つ目に労働力である。農村と都市との間に位置していたので、労働力の入手が容易であった。当時、川口鋳物は川口周辺の農村の需要に応えるために農具や鍋釡を作っていたが江戸の鍋釡の需要を図3 日本の鋳物生産シェア推移(Modern Casting)図2 日本の鋳物生産量推移(Modern Casting)図1 世界の鋳物生産量推移(Modern Casting)写真2 エルザタワー55(右端)満たすのが主とし、日用品鋳物が主であった。そして幕末には大砲、梵鐘、天水鉢なども作ったという。 明治期には「商法大意」が制定され、江戸期において同業者数の制限や商取引慣行を定してきた「株仲間」が廃止され、営業の自由が認められた。この時から鋳物指数が着実に増えていき、産地規模が拡大していった。製品をみると、日用品鋳物を基盤にしながら土木建築用、さらに機械部品用に用途を拡大していった。堅実な製品開発が実施され、徐々に鋳物の用途拡大を図っていった。この間、製造技術も進歩し、江戸時代の足踏みふいごと木炭を使ったこしき溶解から、送風機やコークスを導入し、溶解炉はキューポラへの転換が進んだ。3) 東京の北東に位置する埼玉県川口市には、1940年代後半には約700軒の鋳物工場があり、「鋳物の街」として知られていた。現在ある鋳物企業の中にも鎌倉・江戸時代に起源をもつ企業も多い。 さて、鋳物の生産量についてふれると今や中国がトップを走っている状況である。世界の鋳物生産量の推移を示すと図1 のようになり、2009 年と2016 年の落ち込み以外は、順調に生産規模が増えていることがわり、世界で約1 億トンのレベルである。 一方、日本の生産状況を図2で見てみるとリーマンショックの影響を受けてから2009 年に急減し、その後、少し回復はしつつもリーマンショック以前の状態には戻っていない。世界では伸びているものの逆に日本での生産が微増状態ということは、図3に示すように日本での鋳物生産シェアが年々、低下していることを意味する。今や、日本の鋳物生産のシェアは約5 %まで低下しているのである。 国内の多くの製造業が直面している点は、「業界の人口減に伴う後継者不足と国内マーケットの縮小」であり、鋳物産業へも同じような環境に直面し、大きな課題として立ちはだかっている。日本の鋳物業者の多くは従業員100人以下の企業が全体の93 %を占める産業である。 国内の人口減に伴い後継者育成が厳しい実情と国内市場の縮小化、グローバル化、そしてIT化という環境変化への対応が課題となっている。 日本の主要産業を支えている素形材産業、とりわけ鋳物業は製造工程が非常に複雑で管理が難しいともいわれている。バブル不況後の失われた10年の間に、中小の鋳物業では生産のみならず人的な痛手を被り、技術レベルの低下が懸念され、産業構造の変化に伴い川口の鋳物工業は活力を失い、機械工業全体をみても多くの工場が廃業や移転を余儀なくされていった。 そんな状況でJR 川口駅周辺にある鋳物工場では次々と工場が撤退し、工場の跡地は高層マンションに変貌していった。宅地化は年々、駅周辺からさらに郊外へと広がっていき、1998 年3月には56階建てのタワーマンション「エルザタワー55」が建設されたのは、街そのものが大きく変貌していくことを象徴するものでもあった(写真2)。 このような状況の中で、川口は2020 年には「本当に住みやすい街大賞」も受賞し、交通の便の良さや子育て世代にやさしい地域環境が高く評価されるまでに変貌した。 鋳物産業が時代とともに衰退したのは悲しい現実ではあるものの時代の推移によって、街の位置付けが変わり、住みやすい街となったことは喜ばしいことである。<参考資料>1)川口鋳物工業協同組合編、“ 川口鋳物その歩みと未  来 組合創立80周年記念誌”(1985)2)松井一郎、“地域経済と地場産業 川口鋳物工業の研  究” 公人の友社(1993)3)谷川聡志、“ 川口市の地場産業・鋳物工業の研究” 横 浜市立大学商学部