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テクニカルレポート
2016.06.03
設計品質向上のためのシミュレーション導入手法
メンター・グラフィックス・ジャパン(株)

 

  シリアルバスは、英語のシリアル・デシリアルの先頭3文字ずつをとって、SerDes(サーデス)と呼ばれている。SerDesでは、DDRに比べ圧倒的に早い信号速度を使うことで高い伝送レートを実現している(図3)。GHzを超える早い信号伝送のために、信号成分の一部をあらかじめ強調して送るイコライジングなど、パラレルバスではなかった技術が導入されており、従来のSIシミュレーションでは到底対応できなくなっている。

図3 バス規格の高速化のトレンド

ここまで高速になってくると、1つのビットは受信側のデバイスにとっては1つのビットだけの問題ではすまなくなり、ビット列が101と001とでは、立ち上がり/立ち下がり時間が変わってくると行ったことが発生する。このようなシンボルに起因する変動をISIジッタと呼ぶ。

 このように、SerDesでは、何周期かの信号をシミュレーションしてその妥当性を議論していた従来のSI解析とは違う技術が必要になってくる。SATAでは、10−12以下のエラーレットを要求しているが、このように非常に高い信頼性を確認するには、数千万ビットといった途方もない長さのSI解析をする必要がある。ただ、このような長いビット列を従来のSI解析でシミュレーションしようとすると、地質学的な年代が必要になり、まったく現実的ではない。そのために出てきた技術がHyperLynxに搭載されているFastEyeという技術である。この技術では、伝送チャネルの特性をまず解析し、そこからもっとも伝送品質に影響のあるビット列を生成し、それを詳細解析して対策を行うことが可能である。これにより、SerDesの品質確保が可能になる(図4)。

図4 SerDesでは、『Eye Pattern』のシミュレーションが必須

  GHzオーダーの信号になると、ビアホールでの信号の乱れや損失も無視できなくなる。ビアホールは、特性インピーダンスが乱れるポイントになるが、影響を軽減するために、ビアホールの周りにリターンビアを配置することがある。こうした複数のビアを一つ(正確には1組)の伝送チャネルとしてモデリングし、SI解析をする必要がある。HyperLynxでは、3次元の電磁界解析エンジンを内蔵し、このような複雑なビア構造をSパラメータとしてSIモデルに反映させることが可能である。

PI(パワー・インテグリティ)

 PI解析は、SI解析よりもずっと後に問題となってきたものである。昔から電源系の設計には特別のノウハウがあったが、電源系のシミュレーションによる解析はSI解析よりもずっと問題が複雑で、コンピュータ資源も非常に多く必要とするため、電源系の設計は長い間職人芸的なところがあった。ところが、高速のパラレルバス(DDRなど)が一般的に使われるようになると、その時に発生する同時スイッチングノイズが問題となり、また、低電圧化と大電流化によりデカップリング設計が大きな設計テーマとして上がってきた。

 電源系は、ACの問題とDCの問題の2種類に分かれる。DCは、ICの消費電力の増加と低電圧化に伴う電流密度の増加が近年問題を大きくしている主因である。BGAを配置すると、特に貫通ビアを使った場合には、直下のプレーンがスイスチーズ状になり、電圧降下が許容値以上に増える可能性がある。ビアホールは、必要な電流を流すために複数使いをする必要が出てくるが、複数のビアに正しく電流が流れているかを確認しないと、どれか1つのビアに電流が集中し、そのビアホールの電流密度が上がりすぎてしまい、溶断や焼損の恐れが出てくる。

 プレーンや配線の電流量が増えるにつれ、ジュール熱による発熱が熱シミュレーションを行う際にIC以外の熱源として考慮が必要にもなってきた。HyperLynxには、SI解析の他にPI解析のツールがあるが、PI解析では、電流密度の計算を基板全面及びビアホールについて計算し、電流密度が設定以上の場所についてレポートする機能がある。また、電流分布をHyperLynxの熱解析ツールに送ってデバイスの発熱と合わせて熱解析を行い、その結果を再度電流分布の計算に返すことにより、銅箔の温度による依存を考慮した熱解析ができる。このような連成解析は、従来はファイルの変換を行いながら複数のツールで行う必要があり、非常に手間暇がかかっていたが、HyperLynxでは自動で連成解析のループが定常状態に達するまで実行される。

 ACでは、ICが安定動作するためにターゲットインピーダンスを設定した上で、電源系全体としてどのようにこのターゲットインピーダンスを達成するか、シミュレーションを使って最適な解(コンデンサの容量、数、配置)を見つけていくことになる。

 さて、ここまで、大まかに各種シミュレーションについて解説してきたが、メンター・グラフィックスのツールは、どの機能をとっても、プリシミュレーションとポストシミュレーションの両方に対応している。プリシミュレーションにおいて設計するためのルールや指針を作成し、それに沿って開発を進めた後に、きちんとできているかをポストシミュレーションで確認するというコンセプトを貫いている。

 これまで見てきたように、基板設計における電気的なシミュレーションは従来よりも多用な技術が必要とされており、基板設計とシミュレーションのデータ管理は非常にやっかいなものとなっている。PDCAサイクルを回していくとき、どのような『Plan』をどのデザインに適用し、どのような結果が出て、それに対してどのように対応したか、SI、PI、EMCに対して管理していく必要がある。

 メンター・グラフィックスでは、設計データ、使用したドキュメントやシミュレーション結果、オフィス文書などを設計データのバージョンごとに、関係するデータやドキュメントとリンクして管理するツールがあり、それらを利用することで、出てきた結果を次の対策に効率的にフィードバックすることが可能になる。

 

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