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テクニカルレポート
2016.06.03
設計品質向上のためのシミュレーション導入手法
メンター・グラフィックス・ジャパン(株)

 

はじめに

  プリント基板(PCB)設計にシミュレーションを導入すると、たちどころに効果が上がると思われがちであるが、この世界でも、品質管理の父であるデミング博士が提唱したPDCAサイクル(= Plan Do Check Actionサイクル。つまり、計画し、実行し、その結果を分析し、次の対策を行う、というサイクルを回すことによって信頼性や効率の向上を図る方法)の応用は重要である。PDCAサイクルを回すことにより、シミュレーションがただの設計事後検証ではなく、事前対策を行いルールベースで最初から正しい設計をするための強力なツールとなる。

 シミュレーションは、大別するとプリシミュレーションとポストシミュレーションに分けられる。プリシミュレーションは基板を作って実装する前(または、レイアウト設計を行う前)、ポストシミュレーションはその後を指すと考える。PDCAサイクルの中で考えると、『Do』をはさんでその前がプリシミュレーション、その後がポストシミュレーションになるわけである。いずれをとっても、実際に物を作って火入れをして、測定する前に原因を見つけて対策をとることこそ、シミュレーションの最大の目的であり、利点となる。

 以下に、各種シミュレーションについて個々に検討してみる。

EMC(電磁適合性)

EMCをPDCAサイクルで考えると、以下のようになる。

 ●Plan……EMCのノウハウに基づくルールの整備
 ●Do……ルールに基づく設計
 ●Check……ルール通りに設計ができたか、ルールを守れなかった部分はよしとするかの確認
 ●Action……ルール違反修正が必要と判断した場合には修正。筐体での対策など製品としてのEMC対策。その後、暗室での評価などを行い、ルールの修正、追加

 電磁界の3次元シミュレーションは、通常、設計データをもとにシミュレーションを開始するため、種類としてはポストシミュレーションになる。このことから、事前対策を施すよりも、結果を解析して次の設計のための知見を集めたり、ルールを整備したりすることに適しているといえる。

 ところでEMCの検証ツールを考えてみると、ツールを完全に設計が終わってから利用する場合には、ポストシミュレーションと同じフェーズになってしまうことから、その効果がとらえにくいかもしれない。しかし、設計最中に区切りを入れ、その都度に利用することにより、完全に設計の事後になる前に対策を打っていくことが可能となる(図1)。

図1 EMCをルールベースでチェック。VBScriptなどにより自社ルール開発も可能

SI(シグナル・インテグリティ)

  SIにおいても、PDCAサイクルの適用はEMCと等しく重要である。回路図の段階で、配線のトポロジ(配線の分岐の仕方、各セグメントの長さなど)や層構造(どの層に信号線を通すか、どの層にグランドや電源プレーンを配置するか、また、その構造によって決まる配線の特性インピーダンスの設計)をプリシミュレーションで決定し、そのパラメータを制約条件としてレイアウトを実行する。レイアウト結果を再度シミュレータに取り込み、意図した通りの特性が出ているかの検証が可能になる。SIでは、EMCと違い、定量的に評価することがはるかに簡単に行えることから、PDCAサイクルとよくマッチするルールベースの設計を導入することがより容易である。メモリシステムで利用されているDDRxはパラレルバスなので、タイミングの設計が特に重要である。図2にあるように、DDR2、DDR3のデータレートは年々増加しており、タイミングマージン、Setup/Holdタイムの設計は非常にシビアになっている。

図2 マージンはピコ秒の単位へ

 DDR2以降のDDRメモリでは、ICチップ側に切り替え可能な数種類の値をもつ終端抵抗(ODT)が内蔵されており、また、ドライバ側では出力インピーダンスが数種類用意されている。これらの値は、メモリを実装した段階での最適値を選ぶことにより信号品質の最適化が可能であるが、逆にシミュレーションをすることがほぼ前提となっている。

 さらに話を難しくしているのは、立ち上がりスピード(スルーレート)により、Setup時間を増減する必要があることである。早いスルーレートでは、受け側のトランジスタが動作に必要な電荷を蓄積する時間を稼ぐために、遅いスルーレート以上にSetup時間を必要するが、どれだけこの時間を変化させる必要があるかは、Derating tableを参照することになる。Derating tableを正しく参照するには、まずスルーレートの測定が必要である。

 上述のように、DDRxのメモリバスでは新しい技術が採用されたため、開発者はより多くのパラメータを検証し、最適解を見つけ出す作業が必要になった。メンター・グラフィックスのHyperLynxでは、このような各種設定、シミュレーションの実行、シミュレーション結果の測定、測定結果の判定を自動化しているため、開発者は判定された結果から問題点の回避や対策に専念できる。

 

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